広重のある風景(その4) 江戸高名会亭尽「柳ばし夜景万八」
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東京国立博物館
十二月六日 Moon Day
朝たいへん早いのでまだ来まいと往来の群衆の中に求めながら山内へ入っていった。
眸がおもい。梢の小鳥のやうに。
五号館のまへの広場を歩いた。
博物館の門のまへの札売場のところに人が十五六人立っている中にすぐ目にとまった。
ちらとみるとすぐ小屋のうしろへかくれた。
かあいゝ茶目、
それを認めた俺が何か突さのいたづらをするかをたしかめんためか。
何も知らずに近づいてくるのをながめんためにか。
まだすっかりいきつかないのにちらと顔だけ出してこちらを伺った。
白いぽっとした顔。
「はやくうちを出て、この辺をずーと歩いたの、ずいぶん淋しいとこね、はじめてだわ」
「さうか}
「まだあかない}
「えゝ九時から」
「もう十五分」
好い顔をしている。
ずっとよって徳川時代の人形のあるところで唇をよせた。
やわらかいやわらかい唇を。
(夢二日記大正4年12月6日)
東京国立博物館前での夢二の恋人彦乃との愛の出会いの場面である。
かなわぬ恋、引き裂かれた恋の相手、25歳の若さで病に倒れた夢二の終生の恋人笠井彦乃。
彦乃は、当時本郷にあった女子美術学校に通っていたこともあり、本郷菊坂、御茶ノ水、上野などは夢二との人目を忍ぶ散策のコースであった。
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「四角へ出ると、左手のこちら側に西洋小間物屋(こまものや)があって、向こう側に日本小間物屋がある。そのあいだを電車がぐるっと曲がって、非常な勢いで通る。ベルがちんちんちんちんいう。渡りにくいほど雑踏する。野々宮君は、向こうの小間物屋をさして、
「あすこでちょいと買物をしますからね」と言って、ちりんちりんと鳴るあいだを駆け抜けた。三四郎もくっついて、向こうへ渡った。野々宮君はさっそく店へはいった。表に待っていた三四郎が、気がついて見ると、店先のガラス張りの棚(たな)に櫛(くし)だの花簪(はなかんざし)だのが並べてある。三四郎は妙に思った。・・・」(夏目漱石「三四郎」)
野々宮君が買い物に行った日本小間物屋は「かねやす」といい本郷三丁目の交差点角にある。
1735年(享保20年)開業の老舗。口中医師(歯科医)兼康祐悦〔ゆうえつ〕が小間物店「かねやす」を開店、「乳香散」という歯磨き粉を売り出したのが当たり繁盛した。
「本郷も かねやすまでは 江戸のうち」と川柳にもうたわれた。
芝神明前の兼康との間に元祖争いが起き、時の町奉行は「本郷は仮名で、芝は漢字で」との判決を行なった。それ以来、仮名で「かねやす」と書くようになったとの逸話もある。
【所在地】東京都文京区本郷2丁目40-11
【交通】営団地下鉄丸の内線・都営地下鉄大江戸線「本郷三丁目」駅下車、徒歩1分。
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