文学のある風景(その7) 太宰治「ダス・ゲマイネ一 幻燈」)
昨年の晩秋、ヨオゼフ・シゲティというブダペスト生れのヴァイオリンの名手が日本へやって来て、日比谷の公会堂で三度ほど演奏会をひらいたが、三度が三度ともたいへんな不人気であった。・・・(中略)
日比谷公会堂での三度目の辱かしめられた演奏会がおわった夜、馬場は銀座のある名高いビヤホオルの奥隅の鉢の木の蔭(かげ)に、シゲティの赤い大きな禿頭(はげあたま)を見つけた。馬場は躊躇せず、その報いられなかった世界的な名手がことさらに平気を装うて薄笑いしながらビイルを舐(な)めているテエブルのすぐ隣りのテエブルに、つかつか歩み寄っていって坐った。(太宰治「ダス・ゲマイネ一幻燈」)
「銀座のある名高いビヤホール」は、銀座7丁目の中央通り沿いにある1934年創業のライオンビヤホールと思われる。
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